今回こそは、台木だぜ

台木、ルートストック イン イングリッシュ。

 

一般的に(ワイン用)ブドウ栽培で使われている台木は、アメリカ原種のヴィティス系なのはご存知の通り。

 

フィロキセラだけではなく、実はベト病やウドンコ病も北米出身らしく、アメリカンなヴィティス一味はそれらに揉まれて進化した。一方で、おヨーロッパのおデリケートな箱入りヴィニフェラちゃんは、そんなデンジャラスとは無縁で育ったもんだから、虫に喰われるは、病気になるはで大変だった。そこでマッチョなアメリカンと出会ってくっついて、現在の耐性を備えた合体系になったんだって。

 

で、前回の記事でも記したとおり、アメリカ系ヴィティス属にはフィロキセラ以外の諸問題に対して対応力あり。そこで、そもそもの台木をハイブリット化して、それぞれの親(?)となるブドウ種のいいとこ取りをしよーではないか!となった訳です。

 

・虫系問題(フィロキセラ、線虫)

・石灰に馴染めず萎黄病行き

・渇きに対する強い根性

・マッチョな樹勢

 

これらの問題は、台木選択で、解決まで行くかはビミョーだけど、一定の好影響がもたらされますぅ~。

 

①フィロキセラ

・この虫野郎に対しての初期的な対処は、ヴィティス・リぺリア、或いはヴィティス・ラペストリスを台木にするって試み。これはフィロキセラに対してはガッツリと耐性を備えていたけど、アウェーの土壌(石灰質)に馴染めず萎黄病が勃発。

 

・そこで、ヴィティス・ベルランディエリ、ヴィティス・リパリア、ヴィティス・ラペストリスの間でハイブリッド台木さ創るべ!って展開に。

【例】

 ◆V. ベルランディエリ × V. リパリア = 5BB Kober

  • フィロキセラ耐性:◎
  • 線虫耐性:根こぶ線虫〇~◎、短剣線虫〇
  • 土壌特性に対して:乾燥〇、水分▲、塩分〇、石灰〇~◎
  • 樹勢:まぁまぁ

 

 ◆V. ベルランディエリ × V. ラペストリス = 140 Ruggeri (140R)

  • フィロキセラ耐性:◎
  • 線虫耐性:根こぶ線虫▲~〇、短剣線虫▲
  • 土壌特性に対して:乾燥◎、水分▲、塩分〇~◎、石灰〇~◎
  • 樹勢:まぁまぁ

 

②線虫

・いい虫もいれば、悪い虫もいる。悪さをする連中は、ブドウ樹の根っこを傷つけて水分と栄養調達の邪魔をする。で、成長が芳しくなくなり、品質&収量に悪影響を及ぼす。

 

・やっかいなのは、悪い線虫は(善良なのもそうだろうけど)管理はできても、抹殺できないという点。土壌消毒は土壌の表層部にしか届かないし、線虫専用殺虫剤をぶちまけると、善良な虫さん達まで根絶やしにしてしまう問題が。

 

・そこで登場するのが、線虫コンバット向きの台木。

【例】

 ◆V. シャンピニー = Salt Creek、Dogridge

  • フィロキセラ耐性:〇~◎
  • 線虫耐性:根こぶ線虫◎、短剣線虫▲~〇
  • 土壌特性に対して:乾燥〇~◎、水分▲~〇、塩分〇~◎、石灰〇
  • 樹勢:Salt Creek 超マッチョ、Dogridge まぁまぁ~マッチョ

 

③石灰

・ヴィニフェラちゃんは、石灰豊かな土壌が多いヨーロッパの土壌に良く順応している。でも、アメリカンな台木、特にV. リパリアとV. ラペストリスは石灰質土壌があまりお好みではない。それに伴い鉄分不足、つまり萎黄病(クロロシス)に罹患しちゃうんだな。

・そこで!ここでもレッツ・ハイブリッドで乗り切ろーぜという展開に。

【例】

 ◆上記の5BB Kober、140 R

 

④塩分

・しょっぺー土壌では、ブドウはたわわに実らんのだよ。こいつらに任せておきな。

【例】

 ◆V. リパリア × V. ラペストリス = Schwarzmann

  • フィロキセラ耐性:◎
  • 線虫耐性:根こぶ線虫〇、短剣線虫◎
  • 土壌特性に対して:乾燥〇、水分〇、塩分〇~◎、石灰〇
  • 樹勢:まぁまぁ

◆V. ロンジー × V. リパリア = 1616C

  • フィロキセラ耐性:◎
  • 線虫耐性:根こぶ線虫◎、短剣線虫〇
  • 土壌特性に対して:乾燥▲、水分◎、塩分〇~◎、石灰▲~〇
  • 樹勢:弱し

 

 ⑤水分不足への耐性

・気候変動に伴い、温暖化が絶賛進行中の我らが地球において、水分不足に対する体制の必要性は重要視されていますな。特に、灌漑御法度な地域や、灌漑の設備が整っていなかったり、(そもそもの水不足に伴う)灌漑の規制が厳しい地域では尚のこと。

 

・V. ラペストリスは地中深くまで根を伸ばす種類なので、地表面蒸発から逃れられる深さにある水分に手が、いや根が届く訳ですよ。こいつを片親として交配してみると・・・。

【例】

◆V. ベルランディエリ × V. ラペストリス = 140 Ruggeri (140R)

  • フィロキセラ耐性:◎
  • 線虫耐性:根こぶ線虫▲~〇、短剣線虫▲
  • 土壌特性に対して:乾燥◎、水分▲、塩分〇~◎、石灰〇~◎
  • 樹勢:まぁまぁ

 

◆V. ベルランディエリ × V. ラペストリス = 110 Richter (110R)

  • フィロキセラ耐性:◎
  • 線虫耐性:根こぶ線虫▲~〇、短剣線虫▲
  • 土壌特性に対して:乾燥◎、水分▲~〇、塩分〇、石灰〇
  • 樹勢:まぁまぁ

⑥樹勢

・畑の管理、「おテロワール」、その年の気候などから大きな影響を受けるとはいえ、台木だって樹勢コントロールに一役買っているんだぜぃ。特にV. リパリアを台木の片親とした場合、樹勢がマイルドになる傾向があるらしい。

【例】

◆V. ベルランディエリ × V. リパリア = 420 A

  • フィロキセラ耐性:◎
  • 線虫耐性:根こぶ線虫〇、短剣線虫▲
  • 土壌特性に対して:乾燥▲、水分▲~〇、塩分▲、石灰〇~◎
  • 樹勢:弱し

 

台木、まさに縁の下の力持ち。ここれら一例の上にドッキングされるV. ヴィニフェラの特性との掛け算で、ブドウ樹の一丁アガリって感じなのかな。土壌特性、気候風土、畑の設計、利益を生むために必要な生産量などなどの条件を十分に検討した上での、重要な決断項目のひとつなんですねぇ。

 

☆参照:http://iv.ucdavis.edu/files/24347.pdf Rootstock Selection

Sally Enston (2017), Vines and Vinification